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せっけんの化学と合成界面活性剤

せっけん作りはおもしろいけど化学はちょっと・・・しかし、もっと良いせっけんを作りたい、オリジナルのレシピをデザインしたいと思ったとき、化学をほんの少し知っていることで、合理的に作業をすすめることができます。
また、現在のペットシャンプー事情を見てみると、合成界面活性剤の存在を無視することはできません。とっつきにくいことかもしれませんが、せっけんと合成界面活性剤はどこが違うのかを知っておくことは、飼い主として、消費者として、大切なことだと思います。


 せっけんと合成界面活性剤を見分ける方法

ペットシャンプーは雑貨のため、成分表示の義務がありません。わたしたち飼い主はどんな成分が使われているのか知ることができないわけです。でも、せっけんなのか、合成界面活性剤なのか、それとも両方が混ざっているものなのかは自分で調べることができます。まずは、今お使いのペットシャンプーがどの界面活性剤を使っているのかを、カンタンな実験で調べてみましょう。

ビンに水道水を入れ、調べたいシャンプー液を溶かして泡立ててください。よく泡立てたら、お酢を数滴垂らしてみましょう。液の変化で、せっけんか合成界面活性剤かがわかります。


泡が消えて液が白く濁りました。

せっけんです
泡は消えず液も変化しません。

合成界面活性剤です
泡は残り液が白く濁りました。

せっけんと合成界面活性剤が
混ぜられたものです

※写真左の液体はシャンプー原液。右が実験結果。

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 界面活性剤とは

界面活性剤とは、混じり合わないものの境界をうまく混じり合うように働くものをいいます。
例えば、同じ部屋の中に交流のないAグループとBグループがいたとします。AとB両方のグループに交流のあるCグループが同じ部屋に入って働きかけることにより、AとBはあちこちでCをとおして交流することができます。この場合Cが界面活性剤というわけです。
乳化、湿潤、浸透、起泡、洗浄、帯電防止、柔軟、殺菌などの作用があり、生活のあらゆる場面に活用されています。



 界面活性剤の分類

界面活性剤は、せっけん合成界面活性剤のふたつに大別されます。
せっけんは天然の界面活性剤と言われることがありますが、天然の動植物性油脂から作られるとはいっても、人の手によって工業的に生産される現状を考えると、完全に天然とは言いきれない部分があります。昔はムクロジ、サイカチ、サボン草などが洗浄剤として使われ、これらは正真正銘天然の界面活性剤でした。しかし現在これらが使われることはなく、界面活性剤というと、せっけんおよびせっけんでない人工的に合成された界面活性剤(合成界面活性剤)の2種ということになっています。
たまに、「せっけんではありませんが、合成界面活性剤は使用していません。」というような説明を見ることがありますが、???と思ってしまいます。

界面活性剤はさらに、化学的な性質によって
陰イオン界面活性剤陽イオン界面活性剤両イオン界面活性剤非イオン界面活性剤に分けることもできます。せっけんは陰イオン界面活性剤のひとつです。


★界面活性剤はこんなところに使われています

  
乳化作用 ・・・ 乳液、アイスクリーム、マーガリン、ペンキなど
  浸透作用 ・・・ 農薬、染料など
  起泡作用 ・・・ ハミガキ、泡パック、コンクリートAE剤など
  洗浄作用 ・・・ 洗剤、シャンプー、クリーニングなど

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 油脂とせっけんの化学

高校の化学を思い出してみましょう。脂肪酸は、4本の手を持つ炭素(C)、1本の手を持つ水素(H)、2本の手を持つ酸素(O)の3つの元素からできています。
炭素 水素 酸素

ひとつの炭素の4本の手に4つの水素がそれぞれ手をつなぐと、メタン(CH4)という一番小さな炭化水素になります。ふたつの炭素が1本の手をそれぞれ伸ばしてつなぎ、残りの手を6個の水素とつなぐとエタン(C2H6)になります。こうして、炭素が3個、4個と横並びに手をつなぎ、残りの手がすべて水素とつなぎ合うと、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)、ペンタン(C5H12)、ヘキサン(C6H14)、・・・・・・と鎖のように長い炭化水素が出来上がります。これを直鎖型炭化水素といいます。そして、このようにすべての手が水素で飽和された炭化水素を、飽和炭化水素といいます。
飽和炭化水素
エタン
(C2H6)

炭素は4本も手を持っていますから、隣同士を2本の手でつなぎ合うこともできます。このカタチが二重結合で、すべての手が水素で飽和されず、二重結合や三重結合を持つ炭化水素を不飽和炭化水素といいます。エタンの真ん中が二重結合したものはエチレンといいます。
炭素はそれぞれ1本ずつの手でつなぎ合うと居心地がよいので安定します。しかし二重結合の部分は不安定で、いつでも1本ずつにつなぎ直したいと思っているため、酸素などが近くに来ると片方の手をほどいて、酸素とつなぎ合ってしまいます。(酸化) だから、二重結合が多いほど酸化が早いのです。
不飽和炭化水素
エチレン
(C2H4)

この鎖のようにつながった炭化水素を化学式ではR(アルキル基)と表します。脂肪酸はRにCOOHというかたまり(カルボキシル基)が付いた構造をしています。(R-COOH) 炭素数が12個以上つながったものを高級脂肪酸といい、炭素数12個の飽和脂肪酸がココナッツ油の主成分ラウリン酸(C11H23COOH)、炭素数18個で、9番目と10番目の炭素間が二重結合になっている不飽和脂肪酸が、オリーブ油の主成分オレイン酸(C17H33COOH)です。
脂肪酸は、炭素の数や結合のしかたによってさまざまな性質を示します。

ラウリン酸
(C11H23COOH)
オレイン酸
(C17H33COOH)
※ R(アルキル基)部分の水素原子は省略

保湿成分であるグリセリンは化学名を1,2,3-プロパントリオールとって、3つの脂肪酸をつなぎとめておくことができます。グリセリンと脂肪酸がつながるとき、3つの水の分子が取り除かれ(エステル化)てトリグリセリド、すなわち油脂ができるのです。
高級脂肪酸 グリセリン 油脂
RCOOH
R'COOH
R''COOH
CH2-OH
CH-OH
CH
2-OH

エステル化
RCOOCH2
R'COOCH
R''COOCH
2
3H2O

油脂にアルカリを反応させてせっけんに変化させることをけん化といいます。アルカリには水酸化ナトリウムNaOH(苛性ソーダ)、水酸化カリウムKOH(苛性カリ)が使われます。けん化を化学式で見てみましょう。
油脂 水酸化ナトリウム グリセリン 脂肪酸ナトリウム
RCOOCH2
R'COOCH
R''COOCH
2
3NaOH
けん化
CH2-OH
CH-OH
CH
2-OH
RCOONa
R'COONa
R''COONa

けん化によって、脂肪酸ナトリウム(せっけん)とグリセリンが生成されました。グリセリンはせっけん内に10~15%程度含まれるといいますが、通常は塩析という方法で取り除き、化粧品など他の目的に使われることが多いそうです。グリセリンをそのまま残した丸ごとのせっけんには、しっかり洗浄はするけれど、潤いもきちんと補ってくれる性質があるのですね。塩析をしても、わずかなグリセリンはせっけん内に残ります。

ところで、グリセリンを生まないせっけんもあります。油脂をけん化してせっけんを作る製法を
けん化法といいますが、あらかじめ油脂を精製して脂肪酸にしておきアルカリを反応させる方法を中和法といいます。この方法ですと均一なせっけんをわずか数時間で大量に作ることができますが、皮膚へのやさしさという点では、けん化法で作ったせっけんにはかないません。
高級脂肪酸 水酸化ナトリウム 脂肪酸ナトリウム
RCOOH NaOH
中和
RCOONa
H2O

脂肪酸ナトリウムは、水に溶かすとの弱アルカリ性(pH8~9程度)を示します。弱酸性の脂肪酸(pH5.5)と強アルカリ性の水酸化ナトリウム(pH13)の中間になるのですね。せっけんの構造式は次のようになります。
※化学式のオレンジ部分が親油基、ブルーの部分が親水基です。

           
CH3(CH2-COONa

けん化は炭素数が少ない脂肪酸から始まります。つまり、炭素数が少ない脂肪酸を多く含む油脂を使うと、トレイスが出るのが早く、熟成期間も短いということになります。逆に炭素数が多い脂肪酸を多く含む油脂では、トレイスが出るまで時間がかかり、熟成期間も長くなります。油脂内の不けん化物が多いほどトレイスが早いとも言われます。

また、飽和脂肪酸を多く含む油脂は硬く酸化安定性のあるせっけんを作りますが、リノール酸リノレン酸など、二重結合が多くなるほどやわらかく溶け崩れやすい、酸化しやすいせっけんになります。

さらに、ディスカウントスーパーファットは、マイルドなせっけんを作るためには効果的な方法ですが、過剰油脂が多くなりすぎると酸化安定性が悪くなりますし、きちんとしたせっけんができません。わたしの実験では、20%を超えてディスカウントしたものは安定しませんでした。

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 合成界面活性剤の化学

中性洗剤という言葉がありますが、合成洗剤とは違うものなのでしょうか。
洗浄を目的とする多くの合成界面活性剤が、脂肪酸や脂肪族アルコールを硫酸化させたものを原料にしています(S系洗剤)。つまり、硫酸という強酸性物質に強アルカリ性を反応させるので、その中間の中性の性質を持つことになります。だから中性洗剤。シャンプーやハミガキの成分を見てみると、ラウリル硫酸ナトリウムとか、ラウレス硫酸TEAなど、
~硫酸~といった名称を見つけることができますが、これこそが炭化水素を硫化して作った合成界面活性剤。中性洗剤も合成洗剤の一種。そして、わたしたちやペットが使う合成シャンプーも、いわゆる合成洗剤です。
ペット用シャンプーに配合されていると思われる合成界面活性剤についていくつかご説明します。

※化学式のオレンジ部分が親油基、ブルーの部分が親水基です。


● ラウリル硫酸Na (AS)

 
       CH3(CH211-O-SO3Na

陰イオン界面活性剤。ラウリルエーテル硫酸ナトリウムともいいます。ラウリン酸を高圧で還元したラウリルアルコールを硫化し、ナトリウムで中和して作ります。発がん性や刺激性を指摘されているTEA(トリアタノールアミン塩)で中和する場合もあります。シャンプーのほか、ハミガキ、洗濯や台所用の洗剤によく使われます。分解性は比較的よく3日ほどで分解されますが、浸透力とたんぱく変成作用が強く、皮膚に対して刺激性のある界面活性剤です。眼球にも悪影響を及ぼします。合成ハミガキで歯を磨いたあとに食べ物の味がわからなくなるのは、ラウリル硫酸ナトリウムが舌の味蕾細胞に結合してしまうからです。


● ラウレス硫酸Na (AES)

     CH3(CH211-O-(CH2CH2O)n-SO3Na

陰イオン界面活性剤。ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムともいわれ、シャンプー、ボディソープ、台所用洗剤によく使われます。非イオン界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル(POE・R)を硫化したのち、ナトリウムで中和して作ります。TEAで中和する場合もあります。式の(CH
2CH2O)はエチレンオキサイドといって、エチレンを酸化したものですが、これがクセモノ。エチレンオキサイドが環状に結合すると発がん性物質ジオキサンに変化します。すでにポリオキシエチレンを生成する過程で副生されており、製品にも混入しているそうです。よくラウレス-8という表示がされていることがありますが、この8は上の式のnにあたり、(CH2CH2O)が8個結合しているという意味。nが少ないほど魚毒性が高くなります。また、経皮吸収されやすく、浸透性、たんぱく変性作用が強いことも心配されます。眼球障害も報告されています。


● ココイルグルタミン酸Na (AGS)

  
CH3(CH2)n-CO-NH-CHCH2CH2-O-COONa
                

                
COONa

アミノ酸系陰イオン界面活性剤。N-アシル-L-グルタミン酸ナトリウム、アルカノイルグルタミン酸ナトリウムともいわれます。低刺激のシャンプー、ボディソープによく使われます。ココイルというのはココナッツ、つまりヤシ油脂肪酸を原料に、アシル化したL-グルタミン酸をナトリウムで中和させて作ります。TEAで中和されるものもあります。皮膚に対し温和といわれていますが、脱脂力が強く皮膚刺激ありとの指摘もあります。構造式の中にN(窒素)が見られますが、窒素は河川の富栄養化を招く原因のひとつといわれています。


● ベヘントリモニウムクロリド

       CH3(CH2-N+(CH33・Cl
-

陽イオン界面活性剤。塩化アルキルトリメチルアンモニウムともいわれ、ヘアリンス、柔軟剤などに使われます。洗浄力は弱いのですが、強い殺菌作用があります。陰イオン界面活性剤で洗浄した後に使うと、残留した陰イオン界面活性剤と結合して不溶性の結晶になり、柔軟効果を発揮します。塩素(Cl)、窒素(N)を含有し、高い毒性と強力なたんぱく変性作用があり、皮膚トラブルをおこしやすい成分です。

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 合成界面活性剤の性質

合成界面活性剤は、歴史が浅いにもかかわらず、いろいろな問題点をかかえています。気に留めておきたい合成界面活性剤のデメリットは次のとおりです。

● 浸透性、たんぱく変性
皮膚や毛を覆っている皮脂は、体の水分を逃さず外からの異物を体内に入れないバリアーとなっています。浸透性が高いと、皮脂膜や細胞間の脂質までを根こそぎ剥ぎ取ってバリアー機能を失わせ、ガサガサの状態に・・・。そして細胞のたんぱく質に結合し、細胞膜を壊します。合成界面活性剤に添加される助剤には、発がん性、アレルギー性、環境ホルモンの疑いがあるものがたくさんあり、壊れた細胞からこれら助剤が侵入する危険性も考えられます。

● 経皮毒性
毒性には皮膚から取り込まれる経皮毒性、食することによって取り込まれる経口毒性がありますが、合成界面活性剤は経皮毒性のほうが強いといわれています。体内に取り込まれた成分は血流にのって肝臓へ。ここで蓄積され、細胞に害を及ぼします。同じように腎臓、赤血球にも害を及ぼすことが、動物実験からわかっています。(医学博士:坂下栄氏による実験)

● アレルギー性
動物は、体内に異物が入ると抗体をつくって、次に同じ異物が入ってきたときに備えます。異物を貪食する肥満細胞に抗体がたくさん取り付いて限度を超えると、爆発してヒスタミンを放出、アレルギー反応となって見える形で現れます。合成界面活性剤や合成の助剤は体内で代謝できない物質。体から早く排出したいから、アレルギーとなって現れやすいのです。これらの物質はアトピー性皮膚炎の原因ではないかといわれています。もちろん天然の成分でもアレルギーの可能性はありますが、原因が特定しにくいところが、化学物質によるアレルギーの特徴ではと思います。アトピーとは「よくわからない」という意味合いがあるそうです。

● 難分解性、残留性
せっけんは、ある程度薄まると急激に界面活性作用を失うのに対し、合成界面活性剤の界面活性力は、いくら薄まっても失われません。10ppmの界面活性剤の分解速度は、せっけんが1日で完全分解、ラウリル硫酸Naが3日、ラウレス硫酸Naが9日という実験結果があります。(資料:東京都) 洗い流してしまうから心配ないと思うかもしれませんが、合成界面活性剤は強く浸透して残留する性質ももっていますので、何日も皮表に残って徐々に経皮吸収される可能性があります。また、合成界面活性剤は洗った食器にも残留するといいます。犬やネコは食べた後の食器を舐めますので、経口毒性も心配されますね。

● 魚毒性、生態系毒性
以上の性質は自然界にも影響を及ぼします。まず最初に影響を与えるのは水環境。魚ではエラが肥厚して呼吸を妨げます。繁殖力も低下します。アオコ、赤潮といった害もあります。難分解性であるため、魚介類に蓄積されて、生態系の次の生物へ取り込まれます。そうしてやがて、わたしたちの口に入ります。東京湾の海底を調べると、わたしたちが排出したこれらの化学物質が層を成して堆積しているそうです。一方せっけんは、脂肪酸が水中のカルシウムと結合してカルシウムせっけんをつくります。これは魚のエサになるんですよ。


合成界面活性剤のデメリットばかり挙げましたが、メリットはないのでしょうか。あるとすれば、経済性だと思います。天然の動植物油脂を原料とするせっけんに比べ、コストが安く、均一な製品を短時間で大量に生産できるのです。もともと合成界面活性剤は、石油化学工業の中から生まれました。現在は自然派志向が強いので、植物性原料の一部を組み合わせて合成するものも見られますが、これもれっきとした合成界面活性剤です。
このような合成界面活性剤のデメリットは、人間にも動物にも危惧されることです。
歴史の項目でも述べましたとおり、せっけんは条件さえ整えば自然界でも生成される単純な化合物です。しかし、合成界面活性剤は、高温高圧下で人工的に生成される、いわば実験室の中でしかできない界面活性剤です。ですから、わたしたちの体は合成界面活性剤をいったん取り込んでしまうとうまく代謝できません。代謝するための酵素がないからです。また、自然界でもすみやかに分解することができません。
わたしたち動物も自然界も、作られて100年もたたない合成界面活性剤に、直ちに体を適応させることはできないのです。それをわかった上で、わたしたちのパートナーである犬たちのために、最良の選択をしたいものです。

参考文献
【新書版 洗剤の事典】 合成洗剤研究会/合同出版
【合成洗剤恐怖の生体実験】 坂下栄/メタモル出版
【合成洗剤が環境に与える影響】 石川貞二/リサイクルせっけん協会北海道
【化粧品の全成分表示で何がわかるようになったか】 長谷川治/太陽油脂㈱
【図説 化学】 東京書籍




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