せっけん作りやドッグアロマテラピー、犬との生活から
感じたこと、学んだことなどを綴りました。
お役立ち情報とともにお届けします。

 
はなことの3か月
~その3・最期の日~
2009/7/31


 八景島で遊んだ翌日、2ワンとも疲れているだろうと、短めに朝の散歩を切り上げました。はなちゃんはいつも引きが強いはずなのに、今朝はあまり引かず、とても上手なお散歩。ごはんを食べ終えると、案の定ソファを陣取って1日爆睡です。本当に疲れていたみたい。
 お天気はだんだん下り坂。翌日、翌々日は朝から雨が強く、お散歩を断念せざるをえませんでした。わたしは仕事、ももとはなはわたしの傍らでまったりと過ごします。ときどきはなは、パソコンに向かうわたしに「だっこして」とせがみます。
 「今はダメ!」
何度言っても聞きません。甘えっ子のはなちゃんの困った一面。ずいぶん怒ったものです。

 そして1月30日・・・
食いしん坊のはなちゃんが、ごはんを半分残して食べなくなりました。口に運んであげても、オイルをかけてあげても、どうしても食べてくれません。ガンが見つかってどんどん衰弱していった3か月前と同じ、あのときも、ある朝突然食べなくなったっけ。もうすでにステロイドの量を増やしても効かないでしょう。2度のチャンスはないのです。あのとき・・・ドッグランで遊ぶはなちゃんを見ながら、ふとよぎった不安が、どうやら現実になったようです。

 動物病院は、自宅から坂を上り下りした2キロほどさきにありますが、今日はあいにく雨のうえに足がなく、はなちゃんほどの大型犬をおぶって連れて行くわけにもいきません。体力の消耗を考え、この日は休ませて様子を見ることにしました。

 昼ごろから吐くようになりました。ごはんを少ししか食べていないので、苦しそうに胃液ばかりが出てきます。ぐったりと横になり、時々起き上がっては吐き、水を飲む、その繰り返しです。
 夜、仕事から帰ってきた夫は憔悴しきっていました。再び遺伝子のスイッチがはいったことは、夫にもよくわかっていましたから。何とかしてはなちゃんの命をつなぎとめる方法がないかと必死で、ついには夫婦で言い合いになりました。

 「もうやめようよ、静かに見守ってあげたい。」

わたしはそう言いました、涙が出てしまったけど・・・。夫も黙ってしまいました。
どうしたらいいかわからない。でも何か少しでもしてあげたい。そうだ、はなちゃんをお風呂に入れてあげよう。なぜだかわからないけど、夫と二人、きれいにせっけんで洗い、乾かしてブラッシングすると、余命わずかの子とは思えないほどきれいな毛並みに仕上がりました。
その晩、わたしとはなちゃんはリビングの床で一緒に寝ました。夜、静かになると、隣で寝ている彼女のエネルギーがとても小さく弱くなっているのがわかりました。

 明け方、2階の寝室から大声が聞こえ、びっくりして目覚めてしまいました。夫が寝言で大声を出したのです。いえ、こんなクセのある人じゃありません。何があったのか聞いてみると、子供のころに家で飼っていたロリーという犬が夢に出てきて、夫はロリーに「はなちゃんを助けてくれ!」と必死に頼んだというのです。ロリーは「あるがままに生きるのがいい」というようなことを言ったそうです。その夢を見たせいか、夫に昨晩の憔悴感は失せていました。
 はなちゃんは夫が見つけ、半年も悩んだ末に連れてきた子です。この日彼女を心配しながら仕事に出かけていかなければならない夫は、とてもつらかったと思います。

 1月31日の朝も大雨、朝一番に車ではなちゃんを動物病院につれて行き、そのまま夫は会社へ。食べられなくなってまだ1日というのに、急激に痩せ、衰弱してしまいました。脱水症状もあるのでしょう。いつもなら病院が怖くて、診察台に上がるのも断固拒否なのに、今日は抵抗する力も吠える力もないのか、診察台の上で栄養剤の皮下注射をじっと受けています。
 帰りはペットタクシーを呼ぶことにしました。車ならほんの5分の距離、でもふらふらで立つのもやっとのはなちゃんに、自力で帰る力はとうていありません。病院の待合室でタクシーを待っているとき、また吐きました。
昨晩わたしが夫に言ったとおり・・・もう本当に、見守ることしかできません。


2009年1月31日のブログより
『スイッチ、ふたたび・・・』

いつもごはんタイムになるとうるさく催促し、大メシがっついて食べていたはなちゃんが、昨日の朝は半分しか食べなかった。
ああー、ついにきたか・・・
ステロイドや自然療法が徐々に効かなくなってきているのは感じていました。
獣医師さんからは、「次に具合が悪くなったときは衰弱が早いでしょう。」とも。

その後何度も吐いて、刻一刻と弱っていくのがわかります。この子の中で時間が何倍にも早くすすんでいるみたいです、わたしは代わってあげることもできず、何もしてあげられません。涙を流しながらゲーゲーしているはなちゃんをさすりながら、わたしも泣けてきた。。。

昨晩は、はなちゃんをお風呂に入れて、せっけんできれいに洗い、乾かしました。弱っていくはなちゃんをお風呂に入れるなんて・・・と普通なら思うところですが、なぜでしょうね。

今朝は動物病院に連れて行き、吐き気と下痢を抑える薬の注射と皮下栄養剤を打ってもらってきました。もしかしたら一緒にいられるのはあと数日、先日ドッグランに行ったとき、ひょっとしたらこれが最後のお散歩かも?なんて一瞬頭をよぎり、縁起でもないと振り払ったのがそのとおりになってしまうかもしれません。絶対回復を願っていたけど、現実を受け入れなければいけないときがきたのかな。
常に悔いのないようにと思っていても、「もしあのとき〇〇していたらはなちゃんは・・・」という思いが浮かんできて、今更ながら心が揺れます。




 動物病院から帰ったあとのはなちゃんは、吐き気が止まるどころかますますひどくなる一方です。手足を触ってみると驚くほど冷たく、茶色い爪はまったく色をなくしています!歯茎や舌、おなかの皮膚は、血が十分に通っていかないのか、薄紫色になっていました。眼瞼をめくってみると、そこにも血の気はなく、毛細血管が何筋も赤く不自然に走っているのが見えました。心臓にそっと手を当ててみました。トクトクトク…と鼓動が弱くて異常に早いです。聴診器を出してきて当ててみると、170拍/分も!これは子犬の脈拍数です。小さな息をしながら横たわり、思い出したように顔を上げ、わたしを見ます。時々水を飲もうとトレーに近寄っていきますが、どうしても飲めないようです。
 しばらくしてトイレに行く様子をみせたので、窓を開けると庭に出ていきました。ところがいつまでも戻ってこないので外を見ると、茂みの中に、小鹿のようにうずくまっていました。慌てて引っぱり出しましたが、体が思うように動かなくなっているはなちゃんを小枝だらけの茂みから出すのはたいへんでした。

 
こんな所に小さくなって・・・死んでいこうとしているんだ、ひとりで。

 夕方近くになると、血便が出始めました。便というよりは、内臓で出血した血液が肛門から流れ出るというかんじです。ガン細胞はあちこちの内臓に転移し、ものすごい速さではなちゃんの体を乗っ取っているのでしょう。いいえ、乗っ取るというのは正しくないかもしれません。ガン細胞だって、はなちゃんの一部なのですから。それからの容態の悪化はさらに早く、もう自分で立つこともできず、目もうつろで見えていないかもしれません。わたしは小さく息をしているこの子を抱きかかえ、黙って体をさすることしかできませんでした。

 夜9時を過ぎて、ようやく夫が帰宅しました。あのときの瞬間は忘れられません。自分で体を起こすこともできないくらい弱っていたはずなのに、ぐっと頭を起こして思いっきり振ったしっぽがトントントンと床を打ちました。その時だけ、小さく弱くなっていたはなちゃんの命の炎をがふわぁーっと大きく燃えたように思います。数時間前、庭でうずくまり静かに逝こうとしているかのようだったのに、ここまでがんばってくれたのは、最後に大好きなパパ(夫)と会いたかったからなんだろうな。

 家族がそろい、夫が買ってきたお弁当で晩御飯にしました。はなちゃんが死にそうなこんなときに晩御飯? はい、不思議といつもと変わることなく。テレビをつけ、二人で泣きながらごはんをほおばりました。食べ終わるとしばらくみんなではなちゃんを囲み、話しかけたりさすったりしながら過ごしました。
 突然ももが大声で吠え始めました。たぶん、「死なないで! 本当ははなのこと好きだったんだよ! だから死んじゃダメ!」と叫んだのでしょう。ももは滅多なことでは気を許しませんでしたから、はなちゃんにとっては怖くて厳しいおねえちゃんだったと思います。でも、大好きだったんですね、ずっと一緒にいたかったんですね。
 やがて手足が痙攣し始め、一切声を出さなかったはなちゃんが「オォォォ~ン」となき始めました。わたしたちへの最期の言葉だとわかりました。このときのわたしたちには言葉なんか関係なく、家族みんなの気持ちが完全に通じ合っていたと思います。なんて素晴らしい瞬間だったのでしょう! ある日突然、里見家に迎えられ、やたらと溺愛するパパと、せっけんを作ってはモニターさせるママと、超厳しい犬のおねえちゃんとの暮らしが始まり、あっという間に過ぎて行った年月。

 
みんなが大好きです、このうちに来てよかった

そう最後に言ってくれました。わたしたちにはわかりました。


運命・・・はな、もも、夫、わたし、家族全員が導かれるようにしてその時を迎えました。なき声はやみ、一瞬体をつっぱらせてのけぞったかと思うと、背中の上の方から頭にかけて、はなちゃんの魂がすぅーっと離れていきます。

 
魂が体を離れていく・・・、これが死の瞬間なんだ・・・

完全に魂が体を離れると、肉体は息絶えました。



2009年2月1日のブログより
『みなさん、ありがとう』

 昨晩10時24分、アイリッシュ・セターのはなちゃんが永眠いたしました。
かわいがってくださったみなさま、ご心配くださったみなさま、ありがとうございました。はなちゃんに代わって御礼いたします。


昨日2時頃のはなちゃんです。最後の撮影になりました。

 昨日は雨風が強くて、こんな悪天候で弱っているはなちゃんを病院まで歩かせられないと、行きは仕事に向かうダンナの車で送ってもらい、帰りは初めてペットタクシーを利用しました。
お薬と栄養剤を注射したにもかかわらず、昨日のブログアップ後も症状の悪化はすすむばかりで、体温は低く、呼吸は弱く、脈拍は170を超えていました。手足は本当に冷たくなってしまい、見ると本来なら黒いはずのツメが白っぽくなっています。目は不自然に充血し、おなかも青紫色に。一生懸命さすっても、なかなか体はあたたまりません。つらいのかな、痛いのかな、はなちゃんが好きなゼラニウムでさすってあげよう。

 午後を過ぎると、お水も自分で飲めなくなりました。足取りはかなりふらついていて、しっぽも完全にだらり、それでも外に出たいというので出してあげると、いつの間にか庭の隅っこの茂みの奥に、体を丸めて横たわっています。
 「そんなところで寝ちゃダメじゃない、早く出なさい!」
といって腕を掴んで引っ張り出そうとしましたが、体がいうことをきかないらしくてなかなか出てきません。やっとのことで引っ張り出し、泥だらけの足を洗って体を拭きました。このとき、ああ、この子は死んでいこうとしていると、初めて理解したように思います。猫や野生の動物は姿を隠して死ぬというけど、この子も本能的にそうしようとしたのかな。

 何度か嘔吐と下痢をしましたが、夕方、便に血が混じり始めてからは容体がさらに急変。歯茎や舌は貧血で真白です。血便を何度か繰り返して、もう立ち上がることもできず、焦点も合わせられません。この子は今夜死ぬ、そう思うと一瞬たりとも離れていられず、ずっと抱きかかえていました。
ダンナが仕事から帰るまで、なんとかがんばってほしいな。

 夜、ようやくダンナが帰ってきて、ふたりで抱きかかえて過ごしました。体は動かないけど、ペットボトルのお水を口元に少し流してあげると、舌を動かし水を飲もうとします。手足が硬直したようにまっすぐに伸びてしまうので、さすったりや曲げ伸ばしを続けました。
 10時頃だったと思います、ついに手足に痙攣が始まり、時折突っ張るように足を動かし始めました。今まで声も出なかったはなちゃんが、荒い呼吸のなか「オーン、オーン・・・」とないています。

 「はなちゃん、ありがとう、ありがとう」

それに応えてくれているのか、それとも苦しさからなのか、しっぽを一生懸命振ろうとします。

 「はなちゃん、もうがんばらなくてもいいよ。」

 なき声はほんのしばらく続き、次の瞬間体をぐーっとのけぞらせました。
まるで蝶やセミのさなぎが脱皮するように。
はなちゃんの魂が体から出ていく・・・
ふっと戻ったとき、呼吸が止まりました。
しばらく心臓は動いていましたが、だんだん不規則に弱くなり、やがて止まりました。

 死ってもしかしたら生からの脱皮なんだろうか。だとしたら、目には見えないけど、魂は羽化するのかしら。甘えっ子で寂しがり屋で、「となりのトトロ」に出てくるメイそっくりのなはなちゃんだったけど、最期はとても立派だったね!
とっても上手に脱皮できた! すごいね!

 わたしたちはこの子の最後の時を看取り、一緒に床で寝ました。一緒に寝ながら、今はなちゃんの魂はどこにいるのだろう、生きていた時と同じように、わたしたちの間にもぐりこんでいるのか、それとも天井からわたしたちを見ているのか。ひょっとしたら、どのワンコでもすぐにお友達になれるはなちゃんだったから、先に逝ったワンコたちに連れられて虹の橋の向こうに行っちゃったかな・・・・・・でもまだ、はなちゃんがいなくなった気はしません。

 はなちゃんの最後の言葉の意味を思います。うちに来てよかったって言ってくれたのかな、さようならって言ったのかな。この子がうちに来なかったら、わたしは犬のせっけん屋にはなっていなかったかもしれない。犬のこともこんなに一生懸命になって勉強しなかったかもしれない。この子がうちに来てくれたことは、わたしにとって言葉で言えないほど大きい!

 今、2階ではなちゃんは静かに眠っています。ももがそばについてくれています。
 ありがとう、はなちゃん。またははちゃんの笑顔を見て、体に触って、声が聞けるかしら。いつかわたしが逝くときは、はなちゃんに迎えにきてほしいな。



 はなちゃんの死は、あまりにも神秘的でスピリチュアルな出来事でした。あの子は・・・本当は天使だったのかもしれません。少なくとも、わたしたちにとっては天使でした。

はなことの3か月
~その4・はなこが遺してくれたもの~


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