せっけん作りやドッグアロマテラピー、犬との生活から
感じたこと、学んだことなどを綴りました。
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高齢犬の避妊手術
~我が家の愛犬“もも”の場合~
2008/4/17


 忙しさを理由にずいぶんコラムの執筆をサボってしまいました。読者のみなさま、ごめんなさい。今回は、賛否両論たくさんあると思いますが、避妊がテーマです。

 1ヶ月前の3月11日、このコラムにもたびたび登場してきた我が家のスタッフ犬"もも”が、乳腺腫瘍摘出と避妊手術を受けました。思い起こせば2006年の夏、ももが8歳になった頃、左腹部できた乳腺腫瘍の摘出手術をしたのが最初でした。このときは、口の周りと前後肢にできたイボ数個(皮脂腺過形成か?)も一緒に取ることになりましたが、かかりつけの先生と相談のうえ、子宮・卵巣は温存することにしました。いろんなところにいろんなブツブツができて、それらを一気に取り除いたものの、半日の日帰り手術で、夕方にももを迎えに行ったときも朝出て行ったときと同じ元気さでした。おかげさまで腫瘍も良性、めでたしめでたし。

 さて、最初の手術から半年ほど後、ヒートが終わってしばらくすると、またもものおなかの別の場所にプツリ、小さな小さなマメのようなものが皮下に触れるようになりました。あららー、またできちゃった。すぐに動物病院に連れて行くと、
「ゴマ粒ほどの乳腺腫瘍ができていますね、経過観察してみましょう。変化が見られるようでしたらまた連れてきてください。」
と、先生。犬に閉経はないとされていますが、やはり高齢になるとホルモン低下でヒートの間隔や出血量が減っていきます。腫瘍がこれ以上ホルモンの影響を受けませんようにと心の中で祈っていました。

 そして今年の2月、術後2度目のヒート。その直後、変化は突然現れました。ゴマ粒大だった乳腺腫瘍は茹でた大豆くらいの大きさに急成長し、しかも立て続けに4個も新しい腫瘍が出現!すぐにまた動物病院へ。
「里見さん、この乳腺腫瘍はもちろん手術で取らなければならないのですが、今回は避妊手術も同時に受けるのをおすすめします。乳腺腫瘍だけ摘出しても、また次のヒート後にできてしまう可能性がありますし、10歳を超えたあとの手術の負担を考えますと、今避妊手術を行っておいたほうがリスクを減らせます。それにこのような症状を繰り返すワンちゃんは、子宮の状態も悪い場合が多いのです。」
 わたしはこの診断を半ば予測はしていました。避妊・去勢の是非についてはいろいろな意見があり、獣医さんでさえその考え方はまちまちです。うちのかかりつけの先生は、持って生まれた臓器に不必要なものはないとのお考え、だから先生の方から避妊・去勢も強く奨められたことは今まで一度もありません。アロマテラピーやハーブを生業とし、ホリスティックを尊重する自分にとっては、先生の考え方は自分に一致するものであり、信頼を寄せる一因でもありました。決して強い口調ではありませんでしたが、その先生がついに避妊をすすめたということは、それが今、もものために最善の選択なのだと察しました。
 迷わず手術を決めたものの、9歳という年齢、男の子の去勢手術より女の子の避妊手術のほうが切開部分も大きいことなどを考えると、正直心配でないわけではありませんでした。しかし、高齢になればなるほど麻酔のリスクは高まりますから、手術を先延ばしにすれば死亡の確率はずっと高まってしまいます。ついには手術しないまま老犬となり、子宮蓄膿症を発症し、腹膜炎まで併発して苦しんだ末に死亡ということもあるそうです。今はとにかく、より少ないリスクを選ぶしかありません。

 1泊入院でももを病院に預けたあとの我が家。もものジー・・・・というような波動(?)がないのがわかります。甘えっこのアイリッシュ・セターのはなちゃんも、ももがいないと大人しいです。手術は無事に終わり、翌日お迎えに行ったとき、自分で歩いて出てきたももは、1度目の手術のときよりもずっと痛そうで、元気がありませんでした。が、朝ごはんはしっかり食べたとのこと。
 先生から摘出した子宮・卵巣・乳腺腫瘍を見せてもらい、説明を受けました。腫瘍は大小とりまぜ全部で5個。やはり案じていたとおり、子宮の中には粘液が溜まり、このまま見過ごしていたら子宮蓄膿症に発達しかねないブヨブヨな状態。卵巣も腫れていて、結果としては今避妊しておいてよかったねということに。
 家に連れて帰ったあとのももは、具合悪そうに部屋の隅っこでうずくまってしまいました。食欲が落ちなかったのだけは幸いでしたが、夜も痛みで眠れないらしく、たまに息が荒くなったり、座った姿勢のまま体を丸めて動かなかったり、わたしも夫も夜中起きては背中をさすってあげたりして・・・・・・こんなとき、代わってあげられない飼い主のつらさ!痛みで力が入らないのか、2日ほどうんちをすることもできませんでした。食欲があっただけに、これもかわいそう。つらそうなももを見て、いつもはワガママでしつこいはなも察したのか、あまりワガママをいいませんでした。

【退院直後、部屋のすみっこでうずくまるもも】

 さらにわたしたちを心配にさせたのは、ホルモンのフィードバックによる過剰反応です。ホルモンは、脳の視床下部が指令を出し、脳下垂体より血液を介して各分泌器官に放出、それを受け取った各分泌器官もホルモンを放出し、体内に作用して恒常性をコントロールしています。まるでリレーメールのようですね。卵巣はエストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)といった性ホルモンの分泌器官で、性周期や妊娠・出産に関わりますが、その器官を摘出されてしまうと、視床下部は「性ホルモンが出ていないぞ!もっと出せ!」と指令を出し続けます。でも肝心な卵巣はもうありません。そうなると体は・・・・・・ももの場合は異常な乳汁分泌が2週間ほど続きました。おっぱいがパンパンに張って、ちょっと触るとピュッとはじけ飛ぶほど、いつも寝ているクッションがベタベタになるものすごい分泌量でした。もともとももはヒート後に偽妊娠のような状態 ―乳汁分泌や巣作り行動― がよくみられ、乳腺の過形成もあったので、術後の過剰反応も強かったのかもしれません。心理状態もいつもと違っていましたね。人間でいえば更年期障害にあたるのでしょうが・・・それにしても驚くべき症状でした。

【性ホルモンの放出とフィードバック】

 わたしたち人間には、犬ほど顕著な発情や偽妊娠・巣作りの症状はありません。まぁ、カタチを変えてそのような現象はあるかもしれませんが、ある意味犬たちが人よりホルモンに強く左右されているのを感じずにはいられません。人間が長生きになり、子供を生まない女性も増え、乳がん、子宮筋腫、子宮内膜症などを患う人が増えたように、犬の寿命も延び、高齢になってから生殖器系の疾患を患うことが多くなりました。避妊しないでいると、このような疾患発症の確立が高くなるのは確かですし、発情のときの挙動の激変など、日々の暮らしがホルモンに翻弄されてしまうのも事実です。避妊のメリットは、このような可能性を低くできるということにあるでしょう。
 しかし、ももがこのような経験したからといって、やはり、安直に避妊を肯定しようとは思いません。すべての臓器が健康に機能して体の恒常性が保たれているのには違いないはずですから。肥満や失禁といったマイナスの要素も見逃せません。避妊をすれば望まない妊娠を避けられるといいますが、室内飼いの増えた今、不用意な妊娠の機会は減っていますし、生理時の出血のわずらわしさから解放されるといっても、それは人間の都合。同じ理由でわたしたち人間は避妊手術をするでしょうか?人も犬も、生物として生まれてきた目的は子孫を残すこと。その機能を強制的に奪われるということは、ひょっとしたら犬だって尊厳を失ったような気持ちを感じているかもしれません。(これはわたしの当て推量にすぎませんが)

 避妊や去勢することなく、子孫を残し、一生健康に暮らせれば、それにこしたことはありません。しかし全てがそのようにはいかない現実を思うと、彼らにとって避妊・去勢をしておくのが最善なのか、それともしないのが最善なのか、今後動物医療が進んでも、答えは簡単には出ないでしょう。少なくともその子にとって、よりよい生や性は何かに真剣に向き合うことなく避妊・去勢をしてしまうのは悲しいことです。
 術後1ヵ月たった今、傷口はすっかりきれいになり、元気も元通り回復。ちょっと変わったかなと思うのは、性格が丸くなったことでしょうか。病気のリスクも回避でき、穏やかな心で老後を迎える準備ができたのが、過去でも先でもない今であってよかったと思っています。
 今、避妊・去勢で悩んでいる飼い主さん、あなたはどう思いますか?



アブサン物語
松村友視 著
河出文庫
ブルース・フォーグル博士の
ナチュラルドッグケア

坂田郁夫・光子 監修
ペットライフ社
犬ではなくネコが主人公ですが。松村家の家ネコアブサンの一生を綴ったエッセイ。愛情、去勢、室内飼い、外ネコとの関係、筆者の体験を通じ、良い意味にも悪い意味にも、人は動物の幸せのために何をしてあげられるかを考えさせられる本です。 ナチュラルがキーワード。犬のQOLを高めるための参考書として。あまり知られていないさまざまなセラピーも紹介されており、写真、イラストを用いた簡潔な解説でわかりやすいです。だいぶ前、本屋で見つけて衝動買いしたお気に入り♪







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